これまでの展覧会

作者一覧 心のアート展

「私の住んでいるグループホーム」

私は、19才の時に発病して、いろいろな病院を転々としてきたが、他の病院は長くても3か月だったのに、平川病院には7年も入院させて頂いた。その間も〈造形教室〉に通い続け、去年退院し、今のグループホームに入居させて頂いた。入居者10人、スタッフ6人。スタッフ全員優秀で、信頼のおける優しい善い方ばかり、なかでも施設長さんは実に魅力的な善い方で、様々なジャンルに造詣が深く、優しく楽しい方である。ある日、面接で管理室に行くと、マスクに鼻と口を書いて、アルパカのひょうきんな顔で座っていらした。職員の方と大笑い。そして、ご自分のことは、いつも最後になさる謙虚な方でもある。

私は自分でも重いと思う数字の妄想を34才の時から持っている。私の妄想の世界では、数字にはそれぞれ意味があり、連なる数字で自分の状況を解釈したり、自分の行動が決まったりするのである。

最近、この妄想につながる背景を自慢げに、施設長に披瀝したところ、鋭い切り返しをくらい、深々と落ち込んでしまった私。一石を投じられた思い。施設長さんから見放されてしまったかしらと思い悩んだが、じっくり考え、根は実に優しい方、私を見放す訳はない、と分かった(積もりである)。私が、四六時中、妄想で頭をいっぱいにしているので、他のもっと楽しいことに関心を持ちなさい、妄想に支配されない現実の時間で楽しいことをやりなさいと忠告して下さっているのだと、私は思っている。そして、妄想に捕らわれたままだと、不幸な人間になるとも。妄想に捕らわれて外の世界に関心が向かず、話題性に乏しい私。困り者の私。施設長始め職員の方たちが、どんな話題を投げかけて下さっても話が弾まない。コンプレックスの固まりの私。重い数字の妄想を持つ私は、入居時から今に至るまで不遜で態度が大きく、相当な問題児のような気がしてならない。

そんな私が、ある日、『竜馬がゆく』を若い頃夢中で読んだと申し上げたら、施設長がとっても喜んで下さった。15年かそれ以上、活字に入っていけなくて、若い頃と比べて頭が働かなくなってしまった私。早速、古本屋で手に入れたはいいが、8巻もある。若い頃読んだことがあるにしても、果たして、読破出来るか、一年はゆうにかかるのではないかと、一抹の不安はあるが、やっと活字に入っていけている今、この歴史小説を読むことが希望につながると思い一歩ずつ進んでいきたい。

この居心地の良いグループホームから、週三回〈造形教室〉に通い、切り絵を制作している。〈造形教室〉もグループホームも自由にさせて頂ける場。切り絵に没頭しながら、今晩の夕食は何にしようかなどと考えるのも楽しいひとときである。

私は、15才からの付き合いの旧友4人を含めて、善い友人達に恵まれている。これからの人生を余生と言ってもおかしくない歳になり、良い病院や、余生を托すに足る信頼のおけるドクターに恵まれ、私はこの上ない幸せ者である。

“Alice in Wonderland”『不思議の国のアリス』ではないが、こんなに善い人ばかりに囲まれ、自分が幸せな不思議な世界に生きていると、感謝感謝、一日一日を大切に生きなければと思う毎日である。

PS.『竜馬がゆく』2冊目を読み終わった今、北川さんが優しくして下さっていることと、主治医の出して下さった妙薬のお陰で、大分妄想が治ってきました。

TOPに戻る