絵を描き始めて36年目、私は突然、視力のほとんどを失いました。
左眼は数年前、もともと緑内障だったうえにある朝、立ち上がろうとしてふらつき、運悪く机の角にぶつけ、視力の大半を失くしていましたが、それでも片眼(右眼)だけで100号の油絵を描いていました。片眼だけでも、絵の表現を立体的に描けていたと思います。長年の習慣とでもいいましょうか。
しかし2022年の1月18日午前3時、目が覚めると突然、全てが翳(かす)んでいました。おかしい。少し時間を置いてまた目を開けても全てが翳んだまま。
私は三鷹の杏林大学病院で緊急手術。見えていた方の右眼です。術後、執刀医は「もう少し遅かったら命の危険もあった」、「せめて光を感じるくらいになれば…」と話していました。
数日後、右眼を4等分すると右上がぼやけて見え、副責任医師が「Mさん、すごいよ。0.03見えてる!」と駆け込んできました。その後、上左が見え始め、全て霞んでシャープな線は今も分かりませんが、何か物体があるとは分かるくらい恢復。今は強い発色のあるペンとコントラストの強い物を描く練習をしています。目の前にいる人の感じは、雰囲気や声で判別しています。院内の慣れた道なら、歩くこともできました。
自分の人生の4度目の転機を迎えることになるのでしょうか。
心残りなのは、アパートで共に暮らしていた猫達のことです。私の日常の喜怒哀楽の全てを見ている、知っている猫達。笑いながら電話をしている姿も、孤独に苛まれて苦しんでいる姿も。
深夜、眼が見えなくなり困惑の中、アパートの隣りの部屋の人に119番通報してもらおうと、隣人が起きるのを玄関近くの壁にもたれながら待っている間、ただ事ではない状況を察知した二匹は、入れ替わりたちかわり私の膝に座り、愛情たっぷりに私を和ませてくれた。
元気で暮らせよ、お前たち。この別れが一番辛く、悲しい。一人と二頭ではなく「三人」の相棒だった。