これまでの展覧会

作者一覧 心のアート展

昭和50年前後に比較的大きな展覧会で入選したことがあるようです。入選作品は親族の誰かが所有しているとのことですが、確認はとれていません。昭和60年、八王子市中央図書館ギャラリーにて単独で個展を行い、62年までに同図書館にて3回の個展を開催しています。この頃、当時東京都立中部総合精神保健福祉センター長であった蜂谷英彦医師が「精神障害者QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活・人生の質)」の論文をリハビリテーション雑誌に発表されましたが、井坂さんがそのモデルとなりました。

井坂さんは就労自立を目的に駒木野病院から中部センターに退院し外勤作業の支援を受けていましたが無断退所し、浮浪生活後、駒木野病院に5回目の再入院をされました。駒木野病院ではADL(日常生活活動)指導中心の生活プログラムが組まれましたが成果が見られず、井坂さんの退院活動を追認する形での生活支援を行わざるを得ない状況でした。退院後は絵を描き(時には生活費の為にも)、ギャンブルを好み、退院した仲間やギャンブル等で出会った人たちと付き合い、PSW(精神保健福祉士)に生活支援を要請しながら、自らの生活スタイルを通されました。

6回目の退院後の生活の中心となった絵を個展として発表した作品を観て、ADLと就労自立を治療方針としてかかわり通した治療者側に思い浮かばせた概念が「精神障害者QOL」でした。当時PSWであった私もまた、同時期に院内研修会で精神障害者のQOLについて発表した2事例の1人でした。

この作品には、当時井坂さんが好んで描いたメリーゴーランド、葡萄、バラ、男の後姿が描かれており、井坂さんらしい作品です。大好きなひまわりは単品として描いていましたが、残念ながら手元にありません。そして、井坂さんが肩に担いで病院まで持ってこられたこの絵は、しばらく倉庫に保管されていましたが、井坂さんに対する数少ない理解者であった前理事長の南孝夫先生が立派な額縁を用意され、展示するよう配慮して下さいました。お陰で、今回このように多くの方々に鑑賞していただける機会が得られたものと思います。

院内の休憩所に展示してあった作品が、東精協「心のアート展」審査員の安彦講平氏の目にとまり、出品する運びとなりました。井坂さんは数年前に亡くなり、家族、友人のもとに残された作品は保存状態も悪く処分されたとのことです。精力的に絵を描き続けた井坂さんが、生前に安彦氏と出会っていたら、このような展覧会に出品、参加できていたら、と思われてなりません。

 

2009年1月20日 駒木野病院事務長 神マチ

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