〈アート・グラス〉は、平川病院〈造形教室〉と東京足立病院〈造形教室〉で絵画制作を続けているメンバーたちの原画をもとに、埼玉県越谷市にあるステンドグラス工房の野口均さんが制作した。
ステンドグラスの技術を活かして造形教室の患者さんの描いた作品を〈アート・グラス〉にすることを思い立ち、つぎつぎと制作。ステンドグラス用の色板ガラスをカットしたり、細かい粒に砕いたりしたものを電気炉で焼いて作り上げる。フュージング(ガラス同士を電気炉の中で溶着する技法)で使用する色板ガラスは、アメリカ製。透明感のあるアンティークグラスにドイツ・フランス製を使用。
絵画とステンドグラスは、素材も表現方法も異質である。原画にかぎりなく近づけ、再現しようとする緻密で根気強い作業の中から、色ガラス独特の、透明感のある光沢をたたえた〈アート・グラス〉という新しいスタイルの作品が創り出された。
ステンドグラス作家の野口さんは、東京足立病院内のステンドグラスの制作を担当し、また、平川病院の正面玄関のウィンドウや急性期病棟〈デイケアルーム〉の壁面に〈造形教室〉のメンバーの描いた原画をもとにステンドグラスを飾り付けている。病棟内に採り入れられたステンドグラスの鮮やかな色と光の世界は、入通院する患者さんや病院職員の心を癒し魅了する。
患者さんの作品とアーティストや職人の技術とのコラボレーション。そのような感性と感性の出会い・交流から生み出された作品は、その時々の音や光などの空間の変化を受けて、また観る人の感性を反射することで、常に新たな輝きを生み出し続けていく。
病院、病棟の中は、どうしても衛生面や管理機能面が優先され、無機質なものになりがちである。そのような中で、壁に飾られた一枚のアートが、心をほぐし、生活空間としての病院の空気を変えていくきっかけをもたらすだろう。