『The spider’s thread』
芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』から発想してこの絵を描いた。
お釈迦様の慈悲によって垂らされた蜘蛛の糸が、自分の前でぷつっと切れて地獄へ真っ逆さまに再び堕ちていくカンダタ。堕ちながら上を見上げるカンダタの視点で描いた絵である。
一番下に手の甲だけ見えるのが本当のカンダタの手。カンダタは構図の枠外の下から、つまり池の中から上を見ているのだ。
揺れる水面越しに光に満ちた蓮池とお釈迦様。水面下の、構図の真ん中に見える地獄ランドは、光の屈折で水中に反射した水底の光景なのである。
美しい蓮も元を辿れば汚泥から生えている。人間も皮一枚にどろどろとした臓物を包んで生きている。そんな意味を込めて蓮根に人間の腸を絡めてみた。
そして、カンダタの堕ちてゆく先は、地獄なので、そのようなはらわたの絡まる蓮根の池底よりもさらに下の世界、底の底、地の果てなのだ。