『日記』
これは、作品とか絵画とか芸術とか言えるのでしょうか、なんだか分からないようなもので、作品にしようとして描き始めたものではありませんでした。ポストカードサイズの紙があったから何となく好きな色、空色やオレンジ色を塗り込んでみて、そしてもう一枚に今日一日で心に残った思いを書いてみました。
中学の時に、日記を親に強制的に読まれた嫌な記憶があるから、誰にも読まれないように真っ黒に塗り潰しました。鉛筆で書いた字は鉛筆で消すのが一番効果的でした。次の日も何となく書きたい事を書いて、そして塗り潰して消しました。そんなことを三年間ほとんど毎日書いていて、積もっていきました。ただそれだけです。これは? 作品のコンセプトは? と聞かれても何と答えればいいでしょうか、多分それなりに答えるとしたら、白紙の明日という紙に心を刻んでいき…塗り潰したら過去になる、その繰り返し。
過去は白紙にならずに塗り重ねられていく。嫌なことも全て白紙にはならない、白紙にしてはならない。と、答えておくのが無難かと思うのですが。一日の終わりにこの作業をすることで、何だか安心感がありました。ぐるぐる塗り潰すのは塗り込みやすかったからで、酷い時は力を入れて芯が折れたり、こんな事を一生やっていってもいいかなと思っていましたが、だんだんと書かなくなっていきました。それが偶然なのか平川病院〈造形教室〉に通い始めた頃になります。その後、『病葉』というタイトルの葉っぱの絵を教室で描くことができました。『日記』は作品として出すことじゃないと思っていたけれど、ゴミのようでゴミじゃない、捨てられない、実は一番大切な何かなのかもしれないと思い、今回出品してみました。