これまでの展覧会

テキスト 心のアート展

平川病院の〈造形教室〉の活動と作品群を記録したドキュメンタリー映画『破片のきらめき―心の杖として鏡として』〈フランス語版「Le cri du coeur=心の叫び・真情のほとばしり」が2008年1月フランス・ヴズール市の映画祭で上映されることになり、監督・高橋愼二さんと一緒にフランスに旅行した。

フランス滞在中、余暇の一日、「アトリエ・ノン・フェール(=何もしないの意)」 を訪問した。以前から強い関心、共感を抱いていて、何時かは訪れ、直に現場を見、その活動の一端を体験したい、と期していた。私にとって大きな収穫だった。100年の歴史をもつ精神科病院「メゾン・ブランシュ」(白い館)は、パリ郊外のなだらかな丘地地帯にあり、石造りの病棟が点在する広大な保養地のようなたたずまい。一般社会から遠ざけられ、閉ざされている私たちの国の多くの精神科病院の光景とは対照的に思えた。

「アトリエ・ノン・フェール」は、メゾン・ブランシュの中の、まるまる一棟を専用のアトリエとして、25年前から絵画を中心とした音楽、演劇など、自由奔放な芸術活動を続けている。千平方メートルというとてつもない広々としたスペースにまず驚かされた。入り口ホールからはるか奥までの廊下、左右に連なる全ての部屋には大小さまざま、奔放、斬新なテーマ、鮮烈な色彩の作品群が壁という壁を隙間なく埋め尽くし、200号、100号大の大きな作品が天井から吊り下げられて壮観。ここノン・フェール=何もしない、アトリエの25年間の活動から生み出された厖大な作品、収蔵、展示、資料館であり、それがまた壮大なインスタレーション作品そのものである。

現在も日々、創作活動が続けられている。月曜日から金曜日、朝10時から18時まで、入院患者、退院して地域で暮らしている人たちが自由に出入りし、絵を描き、ピアノ、ベース、ギターの即興演奏をしたり、コーヒーを飲みながら同僚と話をしたり、寝転んだりしながら一日を過ごしている。

この日も何時しか色々な年代、肌色も異なる人たちがやって来て、それぞれの場所で制作に取りかかったり、楽器の演奏をしたり、三々五々、自由。若い女性はオーバー、マフラーをまとったまま、壁に紙を画鋲で止め、立ったままで絵筆を走らせていた。アルジェリア系の青年は私たちを自分の絵の前に連れていって、これは日本のアニメヒーローからヒントをもらって世界から悪を撲滅するヒーローの姿を描いたんだ。首相にも忠告の手紙を書いて送ってるんだ。そういうことが私の役目なんだと思ってずっと続けているんだと、とうとうと語り聞かせてくれた。ギターとシンバルが高々と鳴り響く演奏に合わせて椅子に身体をうずめるようにして首をふっている初老の女性…。

アトリエの主宰者クリスチャン・サバスさんは、もともと精神科の看護師。強い精神薬を飲み続け、来る日も来る日もベッドに臥している人たちの内部にあるそれぞれのもつ個性、秘められた意欲や創造力を引き出す働きかけ、交流交歓の場として病棟の中に「ノン・フェール」を創った。1992年以来、毎年続けている「“癒し”としての自己表現展」の図録や、〈造形教室〉の患者さんたちの自主作品集「夜光表現双書」などをサバスさんと一緒に観ながら、私たちの作品の合同展、イベントができたらいいね、それはぜひ実現したい、とまたの再会を期して私たちは映画祭の地、ヴズール市に向かった。

(平川病院院内誌「みやま」2008年3月 第124号より転載)

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