これまでの展覧会

テキスト 心のアート展

東京精神科病院協会(以下、東精協)主催による『心のアート展』も今回で早や3回目。前回までは東京芸術劇場で開催されたが、第3回は廃校の校舎を改修して生まれ変わった文化芸術活動の拠点『アーツ千代田3331』がその会場となる。また、初の試みとして、フランスで積極的に活動をしているアトリエ・ノン・フェール(L’Atelier du Non-Faire) の、多くの作品が特別展示のために海を渡ってくることになっていたが、東日本大震災の影響で今回の来日は中止・延期となった。『心のアート展』も徐々にインターナショナルな活動となりつつあるが、もちろん東精協主催のアート展であるから、協会所属会員病院からの作品がメインではある。

一次審査は作品の写真を観て行なわれたが、ある程度は参考になるものの、作品自体の大きさや色づかいなど細かい部分は分からないので、やはり実物を直接目にする二次審査が重要となる。作品によっては、接近してみないと分からない細部まで緻密に描き込まれたものもあったりするので、全体像を離れて眺めたり、近づいてじっくりと目通しするなど、そのやり方も様々。造形など立体的なものでは、いろいろな角度から見ることも必要であろうし。今回も百数十点の応募作品があり、それらを数時間にわたり連続して審査したが、第1回から観ていて、心惹かれる作品が明らかに増えてきたように思う。

審査員によって観る視点や受ける印象は恐らくすべて異なっている筈だが、強いインパクトを与える作品は、大半の審査員で共通していることが多いようだ。私は前回のアート展に際して「観る人の感性やどこに惹かれるかは人によって異なるのが当然で、各々の人間の価値観や評価基準などは似ているようであってもすべて異なる。同一作品に対する見方や感じ方は一人ひとり全部違うのだろうが、そのような様々な視点を踏まえたうえで、それらの多くを惹きつける作品が、より芸術性が高いといえるのかもしれない~」というような文章を書いたが、今回の審査を通して、ますますその感を強くしている。

ところで私は、肩書きのひとつにもあるように航空自衛隊の展示飛行専門飛行隊[ ブルーインパルス ]の使用機、T-4の機体塗装デザイナーでもある。子供の頃から50年間も同チームのフライトを見続けてきたことと、「ブルー」を含めた世界各国の曲技飛行隊に関する研究や記事を長年執筆してきたこともあるが、ブルーインパルスの機体塗装デザインは世界的に見てもかなり上位に位置すると、多くの専門家から高い評価をいただいている。

何故ここでヒコーキの話かというと、これも一種の芸術だと思うからだ。もちろん、私の塗装デザインの話ではない。機体の塗装はかなり大切な要素ではあるが、熟練の隊員が完璧に整備した航空機を操り、技量も最高レベルのパイロット達が猛訓練の結果として高度の安全性も考慮した素晴らしい展示飛行を成し遂げた時、「大空の芸術」が完成するのだ。全国で毎年、何万人もの人がそのフライトを楽しんでいるが、一関係者として誇りに思っている。

といったわけで、私は航空機についてはそれなりのものを持っているが、その分野の “芸術” とはまったく別の分野である絵画や造形といった芸術・アートに関しては、はっきり言って素人である。ただ、単に航空機が好きで多少の知識もあるといった程度では大半の観客や専門家に評価される塗装デザインはできないので、それなりの感性はあるのだろう。中学、高校と美術部に入っていた娘の絵に陰影のつけ方などを教えたりしたが、(もともと才能があったであろう)その娘が東京芸大に入学して油絵なぞをやっていたくらいだから。

そのような、多少の感性はあるかもしれない素人(私)も審査した『心のアート展』。皆様は展示された作品をどう感じられるだろうか。美術や芸術の専門家とは異なった視点で、私と似たような「作品から受けるインパクトや感動」を感じる方がおられたなら、”素人” 審査員としては嬉しい限りである。

第3回『心のアート展』、じっくり お楽しみを。

TOPに戻る