これまでの展覧会

テキスト 心のアート展

このたび、東京精神科病院協会による「第1回 心のアート展」が開催されることとなりました。多くの精神科病院では心の問題を抱えた方々に対する治療の一環として絵画や造形等の活動が広く行なわれていますが、専門家の指導による本格的な芸術療法が行なえる医療機関は、まだまだ多くありません。当事者の状態や病状の程度によっては「お絵かき」や「塗り絵」のようなものがあっても良いし、より本格的な芸術活動にまで踏み込んだものもあるでしょう。しかし、今回のアート展はただ単にそれらの、障害を持った方々の“作品”を持ち寄ってお披露目するという場ではありません。「心の内面が豊かに表現された」「芸術性の高い」作品を展示することで広く一般の方に「心の問題」を、芸術や文化活動を通して理解・感じていただくこと、絵画や造形を通じたリハビリ活動に関わる医療機関職員に対して質的向上を促進する種々の材料を提供すること、そして作品を出展した方々に自信と誇りを取り戻していただくこと、などが開催の趣旨となっています。

さて、アートという語を広辞苑で引くと「美術・芸術」とあり、美術は「fine arts」の訳語。本来は芸術一般を指すが、現在では絵画・彫刻・書・建築・工芸など造形芸術を意味する」と書かれています。そして、芸術は「一定の材料、技術、身体などを駆使して、観賞的価値を創出する人間の活動およびその所産。絵画・彫刻・工芸・建築・詩・音楽・舞踏などの総称。特に絵画・彫刻など視覚にまつわるもののみを指す場合もある」のだそうです。そうすると、見方や感じ方によっては何でも芸術になり得ますし、誰がどう評価するのかにより芸術性の「ある・なし」ということになるのでしょうか。モダンアートとか抽象画などというものを見ても、絵心や芸術性のない(?)私なんぞには、どこが良いのかさっぱり分からないこともありますし、よく分からないけれど「何かすごい」と感じることもあったりします。美術・芸術を本格的に学び活動されている方と素人では見方や感じ方が違って当然ですが、作品を見る大半の人は素人です。専門家(人にもよりますが)が駄目といったものが素人受けすることだってありますしね。昔、ビートルズが流行りだした頃、そのレコードを年配の、それなりに名のある女性ピアノ教師に聴かせたことがありました。即座に「こんなものは音楽じゃありません」という答えが返ってきましたが、その後、ビートルズが過去の大音楽家達と同列に評価されていることは皆様ご存知のとおりです。だから、視野が狭い専門家の評価ばかりじゃ駄目なわけで、素人が見ても「何か惹きつけられる」「よく分からないけど、心が動かされる」といった感じ方で、「芸術」はいいんじゃないかとも思うのです。

ところで、誤解を恐れずに言えば、巷ではよく「芸術家とか天才肌の人には奇人・変人が多い」などと言われますが、古今東西、そのような例は数多くあげることができます。我が家にも極めて個性の強い歌人や婆さんなどがおりましたし、小説家の叔父も含めて精神障害(躁鬱病)の多い家系ですから、なんとなくそのことが分かります。私は以前から「精神病も含めた心の病や、奇人・変人などと称される個性の強い人たちが文化・文明を大きく変えることに貢献してきた」と思っていますが、確かに、世の中すべて平々凡々な人ばかりだったら、芸術のみならず科学技術の面でも大きな変化はなかったかもしれません。凡人にはできない大胆な発想、凡人にはない素晴らしい感性などが文化・文明に大きく寄与してきたと考えて、そんなに間違いではないと思いますが、如何でしょうか。

心に病を持つ人たちの作品という視点ではなく、むしろ「凡人にはない感性」を持った方々の作品という視点で 「心のアート展」をお楽しみいただきたいと思います。

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