これまでの展覧会

テキスト 心のアート展

「心のアート展」は、精神障害者が描いた絵画という枠組みを超え、ひとりの人間としての日常性の中からの喜び、悩み等の自己表現がなされたすばらしい作品で埋められている。見る者をして感動と共感をあたえるものである。

審査員の一人としてこれらの絵の審査にあたり、作品のレベルの高さに素晴らしい感動を覚えた。このアート展には、精神障害者の作品という枠組みをはるかに超え、現在を生きる人々に深い共感をもたらす作品が揃っている。この流れが、この会の特徴として、アートの世界に新しい分野を開き、新しい使命となることを願っている。

これに至るには長年のさまざまな試行、実践の積み重ねがある。その一つとして、東京足立病院〜丘の上病院〜平川病院の活動、今まで15回にわたり「“癒し”としての自己表現展」の開催が行われ、この作品の制作過程がドキュメンタリー映画として『心の杖として鏡として』(カラー・60分)『破片のきらめき』(カラー・80分)となり映画化された。これは2008年フランスで開催されたヴズール国際アジア映画祭ドキュメンタリー部門で『心の叫び、心情のほとばしり』という題目で上映され、最優秀賞を得たという実績がある。

今回の展示作品は、こころの病いを抱え、日常生活の中の感情、希望、不安、苦悩、叫びが表現されて、見る者に感動と共感を呼び起こしてくる。

アートは、われわれに語りかける度合いの程度の大きさにおいて価値があると思う。また、見る人の記憶に触れることで、これなら私も知っている、同感だという気持ちが感動を呼び起こし、多様な重みのある共感となる。その結果、人として深い洞察を呼び起こす。これが「癒し」として見る人に伝わってくるのであろう。

これらは40年にわたる安彦先生の、あくまでも患者さんの内面から自主的に湧き上がるエネルギーを大切にし、描く人の背をそっと支える受容的態度と優しさに取り囲まれて、これらの作品が生まれたのであろう。

ある作者との会話

P100号くらいの油絵は画面が対角線により2分されている。下の三角形の空間に膝を抱えて頭を抱えて座っている作者自身の姿が描かれている。下の三角形の空間に彼が閉じ込められている構図である。普通狭い空間の閉じられる感覚は縦か、上下の狭い空間で区切られる。斜めに空間が閉じられることはあまりない感覚である。しかし、極めて窮屈である。見ているうちに、神戸の大震災の時のことを思い出した。被災地には多くの人が、屋根、壁が斜めに倒れてきて、その下敷きになって、狭い空間に閉じ込められ体が動けなくなり助けを呼ぶという状況がまざまざと私の記憶と結びつき、その耐えられない息苦しさに共感した。思わず「苦しかったでしょう」と彼に声をかけた。彼はホッとしてうなずいた。

おわりに

このアート展の目指すものは、ここで描かれたアートは人間として生きていく精神を表し、人々がお互いに共感し、精神障害者として、区別する必要のないものである。

アートは作者と見る者双方に色々な形の精神的仲介者となる役割をもつ。つまり、コミュニケーションである。

このコミュニケーションの積み重ねにより、やがては、市民全体が精神障害者を理解し、差別することなく受容する精神文化が定着すれば、これから始まるこのアート展を行う意味合いは非常に大きい。

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