これまでの展覧会

テキスト 心のアート展

「第3回 心のアート展」に向けて作成したチラシやポスターのデータを大日本印刷に入稿し終えた3月11日、日本は未曾有の大災害に襲われた。想像を絶する地震・津波の被害と、放射線という目に見えない脅威。計画停電が実施されたり、がらんとしたスーパーの棚やガソリンスタンドへの長蛇の列など、非日常的な光景を目の当たりにし、将来に対する不安と恐怖が膨れあがった。そんな中、会場となる〈アーツ千代田3331〉が、建物の所有者である千代田区からの要請を受け、避難所になることが決定。このため、5月に開催するはずだった「第3回 心のアート展」は、10月に延期となった。

この延期により、当初予定していたフランス・パリの精神科病院メゾン・ブランシェ内で1983年より先鋭的な活動を続けてきた「アトリエ・ノン・フェール」の特別展示の話がなくなってしまった。日本で初めて彼らの実作品を展示。アトリエを主宰するクリスチャン・サバス氏とアトリエメンバーも初来日し、ライブペイントやライブ演奏などのパフォーマンスも予定していた。精神科病院内での芸術活動の相互交流が、今回は残念ながら中止となってしまった。

ただ、ここであえて記しておきたいのが、彼らの来日が中止になったのは原発の影響ではなく、単に日程的な問題であったということ。震災後、外国人の来日キャンセルが相次いだが、彼らは展覧会が予定通り5月に開催されていたら来日するつもりでいたし、延期が決まる3月末まで来日のための準備を進めていた。原発大国のフランス人の彼らにとって、今回の災害が他人ごとではなかったということもあるのかもしれないが、おそらくこんな時だからこそアートの力が必要だ、アートで日本の力になりたいと考えていたのではないか、と思う。

個人的な話になるが、展覧会が延期になったことを受け、僕は被災地へボランティア活動に行ってきた。1週間程ではあったが福島県相馬市に行き、被災した民家の泥かきや、子供たちと絵を描く時間を持ってきた。僕が被災地で目にしたのは人間の「生命力」だった。被災した人たちの生命力。ボランティア活動をする人たちの生命力。そしてなにより、子供たちが描いた絵から溢れる生命力。そこにはまぎれもなく生命の輝きと、再生へと向かうエネルギーのうごめきを感じた。

「生きている」という実感は、生きる喜びを体験した時にも感じられるものだが、「生きてしまった」、あるいはこんな苛酷な現実を「生きている」という時にこそ感じられるものだと思う。中には受け入れがたい、あまりの現実のどうしようもなさに「生きている」という実感を持てずにいる人もいるだろう。しかし、それもまた生命力というエネルギー活動の一つの極であるように思う。生命エネルギーは呼気と吸気を繰り返す呼吸のような両極への反復、律動を繰り返し、しなやかに力強くしたたかに突き進み、次の再生へと変化、変容していく。

アートとは「破壊」と「再生」の繰り返しだ。古いものを壊し、新しいものを創り出してはまた壊して創る。この行為の連続が、そのまま芸術の歴史だといってもいいだろう。また一方で、アートとは「メタモルフォーゼ(変容、変身、転生)」でもある。地を這っていた虫がサナギとなり、やがて蝶になるような変化を、常に繰り返してきた。このようなアートのありようは、被災という困難から、未来に向けて歩み始めた被災地や日本の現状に、とてもよく重なるように思える。物質的な意味でも、精神的な意味でも、今この時にアートに出来る役割は少なくないように思う。

震災を機に、わたしたちの社会は大きな転換期を迎えている。いや、迎えているというより、転換せざるをえない状況に追い込まれているといった方が実状に即しているのかも知れない。これまでの大量生産、大量消費する生活を変えていかなくては、わたしたちはこの地球上に存在し続けることは出来ないだろう。合理的で、利便性とスピードを追い求める社会は、さまざまな問題を抱えながら、しかしそんなことには目もくれずに邁進してきた。いま、わたしたちは立ち止まり足許を見つめる、またとない機会を得ているように思う。

今回の展覧会には、都内19病院から約300点の応募作品があり、そのうちの約130点が展示されることになった。また、この展覧会活動に共感、共鳴した画家、漫画家、ステンドグラス作家などアーティストたちの参加もある。これらの作品群の中には、邁進してきた社会との摩擦や軋轢の中から生み出されたアート作品が数多くあるように思う。閉塞的な社会の中で生きにくさを抱えながらも、むしろその生きにくさを表現へのエネルギーに変換し、作品へと昇華させた生命力溢れる作品たちが。これらの作品群の中に、わたしたちはこの社会の姿を見、自分自身のありようを発見し、この先の進むべき道しるべを見いだしていくのかもしれない。

ともかく、この展覧会が終わったら、ノン・フェールのサバス氏やメンバーに今回の展覧会の様子を伝え、次回以降に繋げていきたいと思っている。既存の枠組みにとらわれない彼らの活動とは、国境や文化の壁を軽々と乗り越え連携していける可能性を感じる。出品者や関係者の皆さんとはもちろんのことだが、ノン・フェールやこの展覧会活動に共感、協働するアーティストたちとも連携を取り合い、単なる成果発表の場としての展覧会ではなく、こちらから社会に向け発信し生命の「再生と律動」に寄与するアート活動として、今後も継続していきたい。これから先、長い道のりになるだろうけど、アートを通して新たな地平へと歩む道のりを、多くの人と共にしていけたらと思う。

 

〜付記〜

昨年、本展覧会を観覧された画家の野見山暁治氏より「みんな懸命になって描いている。これが生きることの歓びに少しでも添ってくれれば嬉しいことです。自分の手で創作するのは、出来栄えはどうであれ、いいですね。」という言葉を寄せていただいたことを記しておきます。

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